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一般的なリハビリについてはこちらを参考にしてください。⇒
生活技能訓練


■生活技能訓練(SST)
「浦河べてるの家」の本から:SSTは「みんな100点なんだ」というところから始まる。「今のあなたが、もうすでに100点満点」なのである。これはありのままの自分をまず受け入れようとするべてるの基本と一致する。

患者さんが生活するうえで必要な工夫をする力を伸ばし、より質の高い暮らしを可能にするためリハビリの援助技術のひとつに「生活技能訓練」(Social Skill Training)というやり方があります。(保険が利きます。)これは本来専門家が訓練を受けた後、患者さんと取り組む方法ですが、内容はなかなかおもしろく、やり方次第では日々の暮らしのなかでも利用できます。この技術のさわりを紹介して、援助する側の技術ということを考えてみたいと思います。まず前提ですが、「生活技能訓練」は、患者さんが病気によってこうむったハンディのなかでも特に以下のようなことに着目して考えられた支援法といって良いでしょう。

●患者さんのハンディと考えられるものをあげてみます。
@自発性、自主性が低下している。
慢性の病気を抱えている患者さんは、周囲の人から「自分で自発的に仕事を見つけてやりなさい」とか「自主的に参加しなさい」といわれることが、なかなか苦手です。「これこれのことをしてください」と頼まれるとそつなくこなす人でも、自発的にやれといわれると、「何を、どこまでやったらいいか」ととまどって困ることが多いようです。
実は私たち自身も、自発的にというのは結構面倒くさく、何かの「目安」、「今日はここまでやればいい、という目印」が人から指し示されると、安心して楽に行動できるものです。おそらく、人が自発的に行動できるためには、興味を持って、かつほどほどに自分に自信をもって行動し続けることが必要であり、そのためにはかなりの高いエネルギーを要するわけです。慢性の病気を抱えた状態では、使えるエネルギーの量は限られれているわけで、それで苦手な人が多いのでしょう。
A自分で問題を解決する力が弱っている。
たとえばピンチになってこれからどうするかを決めなければならないようなときに、じっくり腰を落ち着けて考えて、上手に行動するためには、結構工夫が必要です。こんなとき人はしばしば焦りのあまり舞いあがってしまい、突拍子もない行動に走ろうとします。あるいは途方に暮れて、呆然として何もできなくなってしまう人もいます。実はこうしたことは誰もが経験することですが、病気のためにゆとりがなくなると、一層このような傾向に陥りがちです。葛藤をあわてて解決しようとしないことです。また葛藤を抱えたままでチャンスをまつというのは、高いエネルギーを必要とされるからでしょう。
B自分自身に自信がもちにくい、安心感をもちづらい
多くの患者さんは、自分自身のやり方をいろいろ点検して、「これで大丈夫」と安心しているかと思えば、そうでないようにみえます。本当はもっと「大丈夫」と思っていてみてもよい状況でも、なかなか安心した気分をもてず、大丈夫かどうかを確かめることにエネルギーを使いすぎて疲れてしまったり、ためらってひきこもってしまったりしがちです。ときには逆にむこうみずになって、やみくもにがんばっては疲れ果て、残念なことに周囲の評価が上がらないという体験もします。これらは、患者さんが新しいことに挑戦するときには、ともすれば必要以上の緊張を生み、うまくいくこともかえってしくじるとい結果をもたらしがちであることを示しています。
C疲れやすい、根気が続きにくい
統合失調症の性質から言って、かなり回復していても神経が敏感になりやすく、ともすれば消耗しやすい状態にあります。一見元気そうにみえても、リラックスしにくかったり、要領のよさを身に付けていないため、ついつい疲れやすく、作業を長続きさせることがむずかしくなります。そのために仕事の場面などで周囲の人々の評価が上がらず、患者さん自身も元気を失いがちです。
こうしたハンディを抱えながら、それでも自分達が満足できる、よりよい暮らしができるよう、困難を少しずつでもクリアすることを目的として生活技能訓練は行われます。その目標はあまりエネルギーを使わずに、患者さんが生活の中でできることを増やす、問題を解決する力を伸ばすことです。いわば暮らしの知恵を出しあいながら、いろいろ練習して身に付けようとするものです。


■生活技能訓練のコツ
生活技能訓練では、患者さんが効率よく練習できるように、援助するスタッフの側の学ぶべきポイントがいくつかありまうす。実は、これが結構私たちの生活の中でも役に立つアドバイスなのです。実際、このポイントを学ぶことで、スタッフの側もずいぶん楽観的に仕事ができるようになる気がします。患者さんとともに、援助する側も元気になれるのです。もしご家族も、このポイントを身につけることができたら、また少し元気になれるかもしれません。
目標はなるべく小さめにしましょう。
生活技能訓練では、まず患者さん一人一人と「これからどんなことを練習していこうか」を、まず話し合って決めていきます。そのときに、、「一人前に仕事をするようにがんばりたい」というような大きな目標はたてません。なるべく具体的に、小さな目標をたてることにします。たとえば仕事関係では「仕事でわからないことができたときには、人に質問できるようになりたい」とか「遅刻しそうになったときには、会社に電話を入れることができるようになりたい」というような目標です。病院での生活であれば、「主治医に、薬の副作用について質問することができる」とか「病院でとなりの人に話しかけることができる」などです。友達との交流では「朝、知っている人に出会ったら挨拶をする」「友達に借金を申し込まれたらことわる」などが目標になります。自宅での出来事に関していえば、「母親に、体がだるくて手伝えないことを伝える」とか「妹を買い物に誘う」などの目標がたてられます。つまり、今なかなかやれないが工夫次第で達成できそうな小さな生活場面を目標にするのです。また一度にたくさんの目標を決めるのではなく、一回にひとつ、を原則とします。患者さんと話しながら、目標を小さく、具体的にしていくのが、上手な援助のためのコツです。
小さな行動の変化を目標にしましょう
目標を小さく決めることについては実はコツがあります。ひとつは当り前に行っている振る舞いでも、よくみると細かい行動の集まりからなりたっていることに気づきます。そのひとつひとつを練習の課題にしていくのです。これはいわば、「型から入る」という発想と大変似ています。人が技術を上達させるやり方のひとつにまず型をおぼえて、それを練習し、そのうちに自分のスタイルを作り上げるというやり方があります。「わかっているけど、できない」というときは、この型が身についていないと考えるのです。
たとえば、「朝、知っている人に出会ったら挨拶をする」という課題を細かく見ていくと「知っている人にあったら、視線を合わせる」「なるべく明るい表情で、はっきりと聞こえるように話す」「姿勢をよくして、軽くおじぎをする」などの行動に分けることができます。もし、この課題が苦手だと判断した場合には、それではここに含まれている行動のどの部分が苦手なのかと考えます。そして「視線を合わせる」ことが苦手なら、その部分を丁寧に練習をしていこうとするわけです。このように、「考え方」や「想い」に注目するのでなく、「振る舞い・行動」に注目するということがこの考えのひとつの特徴です。
「何かをやめる」でなく、「何かを始める」ことを目標にしましょう。
もうひとつのコツは、「何かをやめる」とか「何かをしないようにする」というような目標の決め方をしないで、「何か新しいことを始める」とか「何かがやれるようにする」というふうに決めることです。
何かをやめるときにはかならず、そのために使っていた時間を使って、新しく始めていることが何かあるわけです。この新たにすることを大切にして、それが長続きするように工夫するのがよいです。「やめなきゃ、やめなきゃ」と思っていると、かえってこだわってしまって、やめずらいのが実際です。もう少し前向きに、これからはじめることの方に気持ちを持っていこうというわけです。「朝寝坊をやめよう」ではなく「朝早く起きたら何をしようか、好きなCDを聞こうか、おいしいパンを買いにパン屋さんまでいこうか」と考え、自分のしたいことが実現できるように工夫をかさねていくというわけです。
具体的に体を動かし、声を出して練習しましょう。
生活技能訓練の知恵の第四番目は、実際に何かを変えようとするときには頭で分かろうとするのではなく、実際に体の動きから学んでいこうとすることです。このような考えの背景には、「行動を変えれば気持ちも変わる」という発想があります。実際、「人から変な目で見られている」という思いに悩んでいる人が、気持ちよく挨拶するすべを身につけることで、、その思いが和らぐことはしばしば体験することです。振る舞いの仕方をわずかに変えることが、生活上の大きな変化をもたらすことは、日頃からいろいろな場面でよく体験することでしょう。このとき大切なのは、変わろうとする患者さんだけでなく、援助する周囲の人たちも言葉ではなく態度で変化を示すことです。生活技能訓練の場ではスタッフがまず見本を示します。視線を合わせて挨拶するとか、はっきり話すとか、見本を示して、患者さんにも自分で気に入ったやり方で真似しながら挑戦してもらいます。病気を経験したために、安心感をもって新しい振る舞いができなくなっているときには、なおさら周囲の人たちのわかりやすいお手本が役立つのです。
お互いに、肯定的に評価するようにしましょう。(ほめましょう
生活技能訓練のもうひとつの優れたところは、この「肯定的に話す」簡単にいえば、ともかく相手をほめるよう工夫するところにあります。病気に陥ると、残念ながら患者さんも周囲の人もつらい思いをすることが多く、ともすれば互いにほめ合うことを忘れがちです。どんな小さな事でもよいので、相手の振る舞いのよかったところを指摘し合うと、その振る舞いを続けるエネルギーが生まれてきます。この練習を続けていると、お互いに励みになるのと同時に、物事のよい面を見ていくという習慣も徐々に身につくのがよいところです。そのことは、少しずつでも生活を明るくするような気がします。

以上のことのために
■「肯定的に物事を見る」ことからはじめることを勧めます。
まず家族が自分自身のことからはじめることを勧めます。また小さな変化をほめましょう。「まだこれしかできない」と考えがちになりますが、「ささやかではあるがここまではできたな」と思うことが大切です。実際変化はゆっくりです。そして変えられないことは無視するのも大切です。物事には変えやすいことと変えづらいことがあります。暴力のような誰かを傷つけるものでなかったら、あえて変えられないことは無視するということも大切です。焦るなというほうが無理ですが、ゆっくりさになれてください。そしてあなた自身、家族の生活、友人や知人との交際や余暇を楽しむことを大切にしてください。

働く
いい気持ちを大切にしましょう。リハビリの延長にある仕事は「いい気持ち」を味わえるものであってもらいたいです。さまざまな「いい気持ち」の体験に支えられて、働くことが意味を帯びてくるわけです。つまり、リハビリは「いい気持ち」を味わうことからはじめることが大切です。
「べてるの家」の本より、社会復帰とは何か!⇒

▽安心してコミュニケーションできることが「いい気持ち」の基本です。
統合失調症の回復過程においては、コミュニケーションをスムーズにおこなうにはかなりのエネルギーが必要になります。急性期に体験するような、神経が過敏になって、頭がごちゃごちゃとしてまとまらないような状態では、たとえば人の視線や言葉の端々がひどく気になり、また自分が相手にどのような影響を与えたかにも必要以上に気を使うといいます。これはひどく消耗する体験で、人をひきこもらせ、人との付き合いを遠ざけ、たくさんの人がいる場に出て行くことをためらわせます。ですから、病気の回復後に人と付き合いはじめることは、自転車ごと転んでしまった人が、また自転車に乗るときに感じるような「だいじょうぶだろうか、うまくいくだろうか」という不安感・不安定感がかならずといっていいほど伴うのです。したがって、消費活動は楽しみのひとつの形であると同時に、働くことの基本にあるコミュニケーションの練習にもなるわけです。それが上手にできるということは、リハビリのステップをひとつ登ったことになります。人と相対しているときに安心感をもってその人といられる、それが気持ちよりコミュニケーションの基本でしょう。家でくつろいでいるときに、そんな感じでいられる。ぶらりと出た散歩でそんな安心感が保てる、買い物にいったり、友達と喫茶店に入ってもおなじである、そしてささやかでも「いい気持ち」を味わえる。その延長に働くことがあると考えてよいと思います。そして働きながらも「いい気持ち」を楽しめるという感覚が確実になったとき、その人のリハビリはほぼ終了に近づいたといってよいでしょう。
▽上手に働くためのコツ
仕事を終えた後のほっとした感じ、気持ちのいい時間を上手に楽しめてこそ仕事は続きます。「仕事上手は休み上手」です。一休みをたくさん活用しましょう。

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